2015-06-24

黒蔵谷

日程:2015年5月上旬、2泊3日
山域:南紀;大塔川
行程:黒蔵谷出合~黒蔵谷~大杉谷林道
形態:沢登り、2p

1月の終わり、トレーニング中にクライミングジムで怪我をした。胸椎が折れた。救急車で運ばれそのまま入院、10日を過ごすことになった。こうして1週間後に控えたボルダーツアーと航空券は泡と消え、病室から飛行機を見送ることになったのであった。
そんな中、見舞いで持ってきてくれた1冊の本――渋い沢の本だった。去年の秋からヒトケのいない山に惹きつけられていたものだから、興味があった。その中でも特に気になる沢をいくつかメモしていた。そのうちの1つにこの谷があった。なぜ書き留めたのかは覚えていないが、ベットから見た、遥かな夢だったのかもしれない。
それから2ヶ月のコルセット生活を終え、1ヶ月のリハビリで山への復帰目処が立った。ちょうどこの頃、沢の人と話があり久しぶりに人と行った。完全におんぶにだっこ状態になった。

郡山ICを降りて下道を走ること140㎞。山道はなかなかであった。川湯温泉から入る県道241号線は、途中から林道となり、タイヤにも厳しい道となっていった。結局1日目、山に入ったのは14時だった。


【1日目】
黒蔵谷出合14:00---下ノ廊下---18:15(幕)

最初の鮎返しの滝は巻いた。骨の強度は戻ったとは言え、周辺の細胞が悲鳴を上げていた。

巻き終えると綺麗な水が待っていた。透き通るこの山の水は、初めて見たような美しさだった。

どこまでも続いているようなゴルジュ帯。
泳ぎ方は全く分からなかったので、この日は溺れてロープで引っ張ってもらうこと数回。
嫌いだった水への恐怖心が少し減ったのではないかと思う。

しかし、綺麗だ、と何度言ったかわからない。
とは言え、いくら泳げなくても、いくら水が苦手でも、日暮れまでもう少し。ロープを出していたら暗くなってしまう。それは本気で最悪だということだけはわかっていたので、集中して泳いだ。1日溺れた甲斐があった。日没直前でゴルジュ帯を抜けた。
薪を集め終わる頃、暗くなった。
【2日目】
7:00---高山谷出合---カンタロウ滝---17:30(幕)

タープの下にもぐり込んだ、と思ったら朝になっていた。濡れた服に着替え直し、いざ中ノ廊下へ。

徐々に分かってきた。口は「水が綺麗!」と発し、頭では「綺麗に見えるほど深いのだから、泳がないといけない」と理解するようになっていった。

そしてついに飛び込む時が来た。
これほどまでに苦手なことはない。しかし厳しい視線を感じたので、思い切って飛び込んだ。鼻と口をめいっぱいに開いて飛び込んだらどうなるか、考えておらず、溺れかけた。
夢中でロープを手繰り、アッセンダーにしがみ付いた。同じところで2、3度流され、いい加減にしたいのは2人とも同じだった。
雨も降ってきた。
まだまだ続く。
泳いでも泳いでも、まだ泳ぐ。


地図上のカンタロウ滝。

これは巻く。 右岸を大きく巻いて最後は懸垂下降。
なんとも、山の山たるや。
これぞ山。
存分に山を味わったところで、また水。泳いで泳いで段々慣れてきた。が、イマイチ泳ぎ方が分からないので無駄に力を使ってしまう。そんなこんなでヘロヘロになると同時に日暮れも気になり始めた。
これが何の滝なのかは確認する気力は無かったが、沢の人の判断で言われた通りのところを登ろうとするけど、全身にぶち当たって来る水で身動きが取れなくなってしまった。訳が分からなくなって左右逆方向にロープを引いたりしていたらしい。それでは動けるはずがない。


ここを上がると、いよいよカウントダウン。
何にかって、夜に向けて。

それでも続く長い淵。終りが見えない。
もはや気持ちで体を動かしているような状態で、水が深くなれば倒れ入るように仰向けに浮かび、無心で進んだ。
この日の最後に、やっと1回で泳ぎ切れるようになった。というよりは、暗くなる前に抜けなければという義務のレールに乗っかっている感覚だった。

抜けた。
幕営の準備をして着替えて腰を下ろした。
とりあえず行動食の余りを食べた。
やっと感情が戻ってきた。沢の人の顔を見ると笑顔だった。
この日は蛭に怯えながらも、十分に休んだ。

 【3日目】
8:30---黒蔵滝---10mトイ---二俣11:30、12:00---林道13:00、13:30---ゲート15:15

朝から泳ぐ。さあ、曲がると大きな釜が現れた。岩がヌメヌメで、先行が派手に滑り落ちていったので慎重に。
ロープを出してもらい、やっと勝手が分かって来たガチャガチャ類を使いセルフまで行き着いた。ここからのトラバースもセットしてくれた。全身ガクガクで1枚撮ったのがこの写真。

カムもハーケンも仕組みをよく知らないまま頼ることになった。沢の人の言う通りにした。
越えると一安心。新緑だ。

最後の林道までの登りは、崩落した後のような場所だった。

カードレールが見えた。
あと3メートル。気を抜くな、と言われた。
這い上がった。


9年前、沢はよくわからなかった。
8年前、沢はどうでもよかった。
5年前、沢に興味が湧いた。
3年前、行きたくて行った沢は疲れた。
去年、1人で沢筋歩きを始めた。
今回、最高に楽しかった。

背中の調子が完全ではないため、プッシュをすると肺が潰れそうになった。かなり時間がかかってしまったけど、なんとかスレスレの時間で下山完了。

林道は笑いながら歩くことができた。





【補足】
・交通手段は車です。
・入渓地点に車を置き、少し先の林道終点に自転車を置いて帰りの時間を短縮(一応)。
・紀伊半島の真ん中を通る道には、コンビニはないので、買うなら高速下りてすぐ。
・那智方面を通る道なら、サークルⓀがよくあります。
・遅くまでやってる温泉は、わたらせ温泉。
・少し前まで怪我人でした、時間・状況は参考にしないでください。この山行の相方は、沢の人です。この状況の自分を連れていける余裕のある人です。
・怪我の前に体がある程度鍛えられていたため、この期間での復帰が可能になったのかもしれません。怪我はしないが一番、リハビリは着実と。

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